2014年に販売が開始されたトヨタの燃料電池車「ミライ(MIRAI)」の価格は、723万円と非常に高額です。なぜエコカーのなかでも燃料電池車は高額なのでしょうか。
その理由は、「絶対的な生産量が少ない」からです。つまり生産量が少ないということは、1台あたりの部品や製造工程のコストがどうしても上がってしまうため、車体価格が高額になります。しかし、トヨタは燃料電池車を世界に普及させるために「ミライ」の市販化に踏みきりました。
ここでは、燃料電池車「ミライ」が高額な理由と、それを市販化しいたトヨタの戦略について詳しく解説します。
燃料電池車が高額になる理由
エコカーにはさまざまなタイプがありますが、そのなかでも燃料電池車は高額です。トヨタが2014年に発売を開始した「ミライ」は723万です。また、現代自動車(韓国のメーカー)が発売している燃料電池車は1,600万円もしました。ホンダの「クラリティ・フューエル・セル」も766万円と高額です。
燃料電池車が高額になる最大の理由は、「生産量が少ない」ことです。生産量を増やせないのは、燃料を補給する「水素ステーション」の拠点数がまだまだ少ないからです。つまり、燃料電池車を普及させるための環境が整っていないのです。
したがって、現時点では量産するためのメリットがないため、ミライでは1台ずつ丁寧に組み立てる生産方法が採られています。1日で25台程度しか生産できないため、どうしてもコストが割高になってしまいます。
また、燃料電池車のような新しくて特殊な自動車をつくるためには、部品も新たにつくらなければいけません。そのためには、高価な金型などを作製する必要があります。何万台も生産するような車種の場合は、1台あたりの製造コストを大幅に抑えることができます。しかし、ミライなどの燃料電池車はまだ量産されていないため、1台あたりの製造コストが高くなります。そのため、車体価格が高額になるのです。
燃料電池車にはセルスタック(燃料となる水素を還元して電気をつくるためのもの)が搭載されています。セルスタック(燃料電池)には、高価な白金が使われています。効率よく電気をつくるためにはある程度の大きさも必要です。さらに、燃料となる水素を入れておく高圧タンクにもお金がかかります。
(出典:toyota.jp)
これらの部品はどれも普通の車の部品のように大量生産できるものではありません。そのため1つ1つの部品価格が高くなり、燃料電池車の車体価格は上がってしまうのです。
トヨタが「ミライ」の市販化した理由
車はあらゆる産業の技術を集めてつくられています。そのため販売価格は高いですが、利益は売上からみればわずかです。ですから、世界トップレベルの生産台数を維持しなければ、自動車メーカーはあっという間に利益を失ってしまいます。
このようなビジネスにも関わらず、なぜトヨタはミライの販売に踏み切ったのでしょうか。それは、「燃料電池車を世界に普及させるため」です。ミライは量産車として販売された、はじめての燃料電池車です。しかし、上記でも説明したとおり、現時点でのミライの生産量は非常に少ないです。ですから、723万円と高額でもトヨタに利益は全く残らないと言われています。
トヨタはハイブリッド車「プリウス」を初めて発売したときも、赤字覚悟の価格でした。そうして世の中に知ってもらうことで、需要を生み出しているのです。現在では、ハイブリッド車の市場において、トヨタは圧倒的なシェアをもっています。ですから、トヨタはこのときと同じ戦略で燃料電車を普及させようとしています。
まずは販売して燃料電池車が街の中を走るようにならなければ、水素ステーションの拠点数を増やすことができず、なかなか普及していきません。このような理由もあり、トヨタはミライを販売することに決めたのです。
ただ、燃料を補給するための水素ステーションなどのインフラ整備を進めるためには、トヨタ1社だけはなく、ほかの自動車メーカーからも燃料電池車が販売される必要があります。そのため、トヨタは莫大な資金をつかって開発してきた燃料電池の特許を、世界中の自動車メーカーが利用できるように公開しています。
ちなみに、燃料電池を利用したバスも開発されています。水素ステーションが増えれば、街を巡回するバスも燃料電池車が使われるようになるかもしれません。
まとめ
ここまでの説明で、なぜ燃料電池車が高額なのか理解できたのではないでしょうか。
燃料電池車は水素を燃料として利用しているため、排出されるのは水だけです。そのため、燃料電池車は「究極のエコカー」と呼ばれています。
次世代のエコカーとして燃料電池車を普及させるために、トヨタは2014年に「ミライ」を販売しました。環境への意識が高い企業や車好きの個人から大きな注目を浴び、販売と同時に1,500台もの受注が入りました。これは、燃料電池車への期待度の高さを表していると思います。
世界ではEV(電気自動車)などの開発も進んでおり、次世代のエコカー市場を巡って競争が激しくなっています。それにより、エコカー技術の進歩はさらにスピードを増しています。この相乗効果によって、「今後もさらに高度なエコカーが生まれるのでは」と期待がふくらみます。